UIターン者の声

海外からUターン

吾郷 秀雄さん

 「見る感動」より「心で感じる感動」の方が大きい。出雲にはそれがたくさんあります。

 

 

 

 

 出雲市多久町生まれ。農学博士。これまでに農林水産省、国際連合食糧農業機関(FAO)、国際協力機構(JICA)などの仕事を歴任し世界各国で地域づくりに携わり、平成23年に帰郷。海外勤務期間は通算18年間、その間にアジア、ヨーロッパ、中近東、アフリカ、中南米など約40カ国を訪問。現在は、出雲の農漁村を中心に現地指導、講演、ワークショップなどを行っている。

 

 

 

出雲市多久町ではどんな子ども時代を過ごされましたか?

 よく自然の中で遊んでいましたよ。家の前の小さな川が氾濫すると、魚が田んぼにたくさん入っていて、それを捕まえていました。他にも、川でウナギやナマズを捕ったり、山でアケビを採ったりした思い出もあります。

 遊びだけでなく、家の仕事もよく手伝っていました。水田がたくさんあったために田植えや稲刈りの手伝い、薪を作ったり松葉を集めて焚きつけを作ったり、風呂焚きも手伝っていました。あの頃は自然が自分たちの暮らしの中に直結していましたね。

 

 

海外でのお仕事経験が豊富だそうですが、教えていただけますか?

 農林水産省に勤めていたのですが、10年たった頃に海外に出るチャンスをもらいました。国家公務員なので国際援助の仕事もあったのです。中米のホンジュラスに3年間赴任しました。そこでの仕事ぶりが認められていたこともあり、数年後にまた海外勤務の機会をもらいました。その際は、南米のパラグアイに農牧大臣補佐官として赴任しました。言葉も文化も違う異国の地での仕事は、苦労も大きかったです。国際援助では、現地で充分に実力を発揮できていない人が活躍できるように支援することが大事です。海外からの専門家は、いずれ帰ってしまうため、専門家がすべてやるのではなく現地の人達だけで自立できるようにする必要があります。

 次に、南米のチリにある国際連合FAOラテンアメリカ事務所で働きました。砂漠化防止のための仕事です。周辺6か国で協力しながら原因の究明と解決策の検討を進めていくプロジェクトのリーダーをしました。各国に様々な個性を持つ人たちがいて、各々の良さを活かしながらもうまく進めなくてはいけない仕事であり苦労も大きかったですね。

 帰国後に大学で農学の博士論文に取り組み、学位をいただきました。その後、南米ボリビアの貧困農村で、砂漠化防止を目的とした地域づくりの実証的研究プロジェクトを担当しました。現地で人も雇用しながらの仕事でした。このときの成果が認められ、国際土壌保全学会から技術賞を受賞し、また地元の大学から名誉博士号も頂きました。さらに、実践したことを本にまとめ出版したので、モデルケースとして他国にも広がりました。

 その後、JICAの仕事で、農牧省の政策アドバイザーとしてさらに3年間ボリビアに滞在し、現地の大学講師もしました。ボリビアの住まいは首都のラパスで、標高が4000メートルもあるので、空気が薄くて大変でした。体調は悪くなるし、酸素が少ないため頭もまわりにくくなるなど生活面で苦労がありました。

 

 

その後はどんなお仕事をされましたか?

 高知県にある農林水産省の出先の事務所長として赴任しました。その際、高知大学で非常勤講師も務め、大学生と農村でのフィールドワークを伴う授業も担当しました。授業がきっかけとなり地域にとっても大きなプラスがありました。例えば、仁淀川町の棚田地域では地元住民により地域資源が再認識され、地元住民が自発的に地域おこしのために動き出すなどの成果が出たのです。

このとき思ったのは「今まで海外で経験してきたことや実践してきた手法は、日本の地域づくりに活かせるし、求められている」ということです。

その後、約30年ぶりに中米のホンジュラスに再赴任し3年間働きました。その頃には、両親も高齢になっていたこともあり、帰郷しようと決め、退職して地元の出雲市多久町に戻ってきました。

 

 

出雲に戻ってからの活動を教えてください。

 当初はボランティアで地域づくりの支援をしていましたが、途中から出雲市の地域づくりアドバイザーとして委嘱を受けました。地域住民へのアドバイス、高齢者からの生活文化の聞き取り調査、講演、ワークショップなど幅広く行いました。また、島根大学の非常勤講師や島根県立大学の講義なども担当しました。地元の檜山地区の、郷土誌の編纂にも携わりました。

今は地域づくりアドバイザーの任期を終え、民間企業で働く傍ら、農漁村の地域づくりをサポートしたり、地域づくりに取り組むNPO法人の会員の1人として活動しています。

 

 

出雲の魅力だと思うことは何ですか?

 出雲の一番の魅力は、豊かな生活文化だと思います。例えば、漁村の鷺浦では北前船が伝えた珍しい料理が今でも食べられていますし、神西湖の周りの町では、湖で捕れた魚を使った「ボラ料理」や「コハダ寿司」がありおもしろいですね。また、直会(なおらい)の文化も特徴的です。本来、直会とは神事のあとの宴会などを指しますが、出雲では運動会の打ち上げやお寺の食事会など、様々な飲み会のことを直会と呼びます。これは、神様の存在が身近であることの現れではないでしょうか。

私は、「見る感動」よりも「心で感じる感動」の方が大きいと思っています。出雲大社にしても、建物は大きくて素晴らしく感動しますが、訪れる人たちはそれ以上に縁結びという物語に感動していると思います。出雲には「心で感じる感動」がたくさんありますね。

 移住を考える人にとっても、豊かな生活文化、神々の国という特殊性、そして受け入れてくれる地元の人達がいる出雲は、とても魅力的だと思いますよ。

 

 

 

写真・取材・文 NPO法人ふるさとつなぎ 代表 清水隆矢【市よりの委託先】

http://hurusatotunagi.jimdo.com/