UIターン者の声

カナダからUIターン

クラーク サムエルさん 曽田 舞雪さん

出雲市駅から東に向かって約10分、さらにヤマタノオロチ退治の舞台として有名な斐伊川を南に向かって約10分。田園風景が広がる一角に曽田さんご一家の住まい、兼、タトゥーの施術スタジオがあります。 出雲で生まれ育った妻の舞雪さんと、舞雪さんと出会いカナダからIターンをした夫のサムエルさん。タトゥー彫師のサムエルさんは大工の経験もあるため購入した古民家のDIYをおこない、現在も暮らしに合わせてさまざまな改修を続けています。 今回のインタビューでは、お二人の出会いから出雲へUIターンする事になったキッカケ、出雲の暮らしについて、これからの夢などについてお話を伺いました。

お二人はどのように出会ったのですか?

舞雪さん
「カナダのバンクーバーで出会いました。出会いのキッカケはマッチングアプリです。私はワーキングホリデーでカナダに短期留学をしていて、英語のほかにフランス語も勉強したくて、話し相手を探すためにアプリへ登録していたんです。それでモントリオール出身でフランス語も話せる彼と出会いました。

彼は日本が大好きで、日本語も勉強していたこともあって、すぐに意気投合してお付き合いすることになったんです。」

 

舞雪さんがワーホリをしようと思ったキッカケは何だったのでしょうか。

舞雪さん
「先輩が海外留学をしていて、色々と留学に関する情報をもらえたのがキッカケです。もともと出雲で生まれ育つなかで、海外に出てみたいという気持ちが強かったんですよね。英語は全然喋れなかったんですけど、最終的に日常会話くらいはできるようになりました。

ワーホリの期間は1年なので、カナダの後はアイルランドなどヨーロッパにも行ってみようと考えていたのですが……彼と出会ってガラッと人生が変わりました(笑)」

 

まさに運命的な出会いですね。

夫のサムエルさんはもともと日本が大好きだったとのことですが、どんな所がお好きでしょうか?

サムエルさん
「昔から日本の文化が大好きで、東京、京都、和歌山など5回ほど日本に旅行をしていました。規律正しく、お互いが尊重し合って安全に住むことができる日本にとても惹かれています。最初に日本に訪れたとき、直感的に『ここに住みたい』と感じたほどです。」

 

以前から日本に縁を感じていたのですね。

舞雪さんはワーホリ終了で出雲へUターンしたのですか?

舞雪さん
「そうですね、もともと出雲へ戻るつもりで飛行機を取っていました。彼と遠距離恋愛を続けようと話をしていたのですが、帰国直前になって妊娠したことが分かったんです。すごく驚きましたが、彼も『産もう!』と言ってくれて、そこから結婚の話や彼の移住の話になりました。」

 

奇跡的なタイミングですが、帰国やサムエルさんのIターン、新生活の準備などが重なり大変だったのではないでしょうか。

舞雪さん
「本当に、全然予定になかったのですごく忙しかったです。UIターンの流れとしては先に私だけ日本に帰って、2か月遅れて彼が出雲に来たという感じです。バンクーバーの家の契約や仕事のことなど、引き継ぎがいろいろあったので少し時間がかかったみたいですね。」

 

サムエルさんにとっても突然の妊娠発覚と海外移住でしたが、日本へ来ることに不安はありませんでしたか?

サムエルさん
「不安よりも日本に住める喜びのほうが大きかったです。DIYやデザイン、木工なども得意なので仕事の心配も無かったですね。」

舞雪さん
「私の実家が近くにあって、しばらくそこに住む予定だったので、それも安心材料でした。」

 

ご両親も驚いたのではないでしょうか。

舞雪さん
「留学中、彼のことは何も話していなかったのですごくビックリしていました。日本語が通じないという不安もあったと思うのですが……。でも実際に会ってみて、彼の穏やかな人柄をみて安心したそうです。今では父と彼が翻訳アプリを使いながら二人でお出かけすることもあるんですよ。」

サムエルさん
「家に畑を作りたくて、彼女のお婆ちゃんに色々教えてもらうこともあります。日本語を聞いたり読み書きしたりするのは少しずつできるようになってきましたが、話す事は難しいので、これからもっと勉強していきたいですね。」

 

それぞれ出雲へUIターンするときに特に大変だったり、困ったりしたことはありましたか?

舞雪さん
「国際結婚の手続きですね。日本とカナダの両方に書類を出す必要があって本当に大変で、何度も確認や翻訳をしながら進めました。」

サムエルさん
「自分もビザの申請や行政の手続きが大変でした。とりあえず1年の配偶者ビザをとって、その間に生活を整えていきましたが……。税金・年金・保険などの手続き関係が、それぞれ別の窓口でまとめて相談できないのがもどかしかったです。」

 

書類や手続きという難関を越えて、出雲での新生活がスタートしたのですね。UIターンという目線で出雲での暮らしはいかがですか?

舞雪さん
「改めて出雲の良さを感じてます。自然が多くて人も穏やかで、自分にとって住みやすくて安心感がありますね。カナダにも良いところはたくさんありますが、暮らしの便利さや医療の充実などはやっぱり日本がいいなと思います。」

サムエルさん
「カナダは病院の受診にとても時間がかかるんです。日本のようにすぐ検査してもらい、薬局で薬をもらえるという仕組みがないので、病院で診察を受けて、別の施設で検査を受けて、また病院で結果を待って……風邪が治る頃に結果が出る、なんてこともあるので(笑)」

舞雪さん
「出産のときも特に困らず安心して生むことができたのは有難かったですね。色々な人に助けていただいているので、支障なく暮らせています。」

 

サムエルさんは出雲の好きなところはありますか?

サムエルさん
「自然が豊かなところです。アウトドアが好きで、夏はよく海へ泳ぎに行っていました。カナダにいたときはロッククライミングをしていたので、これから出雲でも色々な山に登りたいですね。」

舞雪さん
「家の近くに削られて切り立った山があるんですけど、それに登りたいとか、家にボルダリングの壁を作りたいって言ってるほどなんです(笑)」

サムエルさん
「やりたい事が多いですね(笑)それから田畑が多いところも好きです。自分達で作物を作って料理して食べる、という自然と共にある生活はすごく素敵だと感じています。」

 

出産があり、しばらくご実家で暮らしていたとのことですが、現在お住まいの古民家を購入した経緯はどのようなものだったのでしょうか。

舞雪さん
「子どもが生まれて実家を出ようという話になって、私は実家と少し離れた賃貸の物件でいいかなと考えていたんです。でも彼は実家や地域の暮らしが気に入っていたので『実家近くの空き家を買って直して住みたい』と言っていて。それで出雲市の空き家バンクで実家近くを調べていたらこの家が見つかりました。結構古い家だったので本当に直せるのか不安でしたが、彼が『全部自分でやるから大丈夫』と言ってくれたので信じて任せることにしたんです。」

サムエルさん
「カナダではデザイナーやタトゥーの彫師として生計を立てていましたが、大工の経験もあるのでDIYでできる自信がありました。特にこの家は柱などの構造的な部分の傷みが少なかったのと、自然の中で子供を育てられること、そしてタトゥーの施術スタジオを設けることができそうだと思って購入を決めました。電気や水道など専門工事以外の床や壁は全部自分でリフォームしたんですよ。今も住みながら少しずつリフォームを続けています。」

 

使いやすさとオリジナリティを両立したとても素敵な造りとなっていますね。

サムエルさん
「二階にはタトゥーの施術スタジオ兼作業場もあります。リラックスしていただけるようレイアウトにこだわりました。日本の行燈が気に入ったので自分で作ってみたり、自作のアート作品を飾ったりもしています。」

舞雪さん
「お客さんとの打ち合わせは私が同席して通訳をしてます。お客さんと一緒にデザイン案を考え、彼が図案を仕上げて、施術する……という流れですね。」

 

タトゥーについて、出雲での反応はいかがでしょうか?

サムエルさん
「タトゥーを入れることに抵抗のある方もいますが、若い世代を中心に少しずつ理解が広がっていて、小さなワンポイントや家族の記念など思いや願いを込めて施術するお客さんも多くいます。Instagramへ投稿している写真には地域の方からの反応もいただいています。」

舞雪さん
「リピーターの方もいらっしゃるので、有難いですね。」

 

タトゥースタジオの活動や日々の暮らしを通して、地域に少しずつ根を張ってこられたと感じます。これからの展望や目指していきたいことを教えてください。

サムエルさん
「アートやデザインも好きですし、DIYも好きなので何でも屋みたいな感じでモノづくりをしていきたいと思ってます。」

舞雪さん
「私はカフェが好きで働いていた経験もあるので、いつか彼のギャラリーに併設したカフェなどを開けたらいいねという話をしています。」

サムエルさん
「色々なことにチャレンジをしていきたいですね。」



カナダで運命的な巡り合いを経て、言葉や文化の違いを越えて夫婦となったお二人。出雲へのUIターンという形で新しい生活を始め、古民家を自らの手で整え、地域と関わりながら暮らしを築いていく姿はとても自然で、無理のない生き方に見えました。


取材のなかで曽田さんご一家が見せてくれたのは、「自分たちで創造し、楽しみながら形にしていく暮らし」の可能性です。出雲には、挑戦を受け止める人のあたたかさと、暮らしを豊かにしてくれる環境があります。UIターンを考える方にとって、自分らしい暮らしを考えるヒントになるのではないでしょうか。

曽田さん、貴重なお話をありがとうございました。曽田さんご一家が造ってゆく新しい日々を心より応援しています。


サムエルさんのタトゥースタジオ
Instagram→@tattoo.nihon
MAIL→samuelclarke77@gmail.com

 

写真・取材・文 宇佐美 桃子