UIターン者の声
千葉県からのIターン
椎名 啓介さん
2021年5月にオープンした飲食店「BeerTeriaCNA(ビアテリアシーナ)」。2020年に千葉県からIターンした店主の椎名啓介さんが「クラフトビールの良さを広めたい」という思いでオープンしたお店です。導かれるような偶然を重ねてIターンをしたという椎名さんへ、その経緯と今後の夢についてお話を伺いました。出雲市駅から西に5分ほど歩いた場所にある「BeerTeriaCNA」。店主の椎名さんが、千葉に住む木工職人のお父さまと一緒に古い建物をリノベーションしたお店です。中に入ると、一人でも複数人でも腰掛けやすい湾曲したカウンターや、海をモチーフとした絵画を敷き詰めた壁面、あたりに散らばる遊び心のある意匠など、独創的で鮮やかな内装が目を惹きます。
営業はランチとディナー。メニューを見せていただくとクラフトビールだけでも10種類以上あり、これらは季節やオススメによって常時変動しているのだそう。また、ビールだけでなくワインや焼酎、お酒を飲めない方には珍しいノンアルコールビールやソフトドリンクも多種置かれていました。
フードはギネスビールの衣で揚げたフィッシュアンドチップスや猪ソーセージ、オリジナルのパスタやピザなど、ドリンクに合う料理名が並んでいます。
このままでは取材そっちのけでビールが飲みたくなってしまうので、早速Iターンのお話を伺いました。
2020年の1月に千葉から出雲に引っ越してきたばかりだという椎名さん。
そもそも、出雲との出会いは何だったのでしょうか。
「池袋へラーメンを食べに行ったついでに、島根のUIターンフェアを覗きに行ったのが出会いです。それまでは島根県のこと全然知らず、意識したことすらなかったですね。」
ではなぜUIターンフェアへ?
「ちょっと信じられない話かもしれませんが……千葉に住んでいた頃、繁忙期に木工職人の父親の仕事を手伝って、あとの期間は飲食店の社員として、という感じで働いていたんですよ。でも仕事はどっちつかずだし飲食店もなかなか良い職場に巡り合わなくて、なんとか生活を切り替えたいなと思っていたんですよね。女性関係もちょっと悲惨な目にあっていましたし(笑)
それで悶々としていたときに『気持ちの切り替えになれば』と東京の神社に参拝に行ったら、そのあとでなぜかスマホに島根のUIターンの広告がめっちゃ出るようになったんです。最初は鬱陶しいなーと思ってスルーしていたんですけど、あまりに出てきたのでちょっと気になって場所を確認してみたら、食べに行きたいラーメン屋さんの近くだったので行ってみた、という流れです。」
それはすごい! 偶然という言葉では片付けられない流れですね…!
「そうなんですよ。引っ越したあとに知ったのですが、その出来事ががちょうど一昨年(2019年)の10月、神在月あたりだったので神様が議題に上げて出雲へ引っ張ってくださったのかな、と思いました。」
導かれるままにUIターンフェアへ足を踏み入れた椎名さん。
Iターンを決意したタイミングはいつだったのでしょうか?
「割とすぐです。もともと関東の生活に飽き飽きしていましたし、さっきも言ったように生活を変えたいと思っていたので、話を聞いて直感的に『あ、いいな』って。」
お仕事や住む場所はどう決められたのですか?
「仕事はふるさと島根定住財団の方に、飲食店などを経営しているベンチャー企業を紹介していただきました。話を聞いてみると社風が良く、チャレンジ性があって面白そうだったので会ってみるとお互いにマッチした、という感じでスムーズに決まりました。
12月に3日かけて出雲や松江を見て周り、その間に仕事の話を伺って採用即決していただき、流れで住むアパートも決めて千葉に戻った、というスケジュールでしたね。」
物事がトントン拍子に決まっていったということですが、ご実家の反応はいかがでしたか?
「父親の仕事から離れていた時期だったので、報告はしましたが特に相談せず……でも反対はされませんでしたね。」
それでも、お店づくりの際にはご両親が千葉から駆けつけて作業してくださったとのこと。言葉に出す機会は少なくてもご両親が気にかけていらっしゃる様子が分かります。
話は戻りますが、Iターン後の生活はいかがでしたか?
「12月に職場と家を決めて、翌年の1月に移住してきたのですが、その頃は忙しくしていたのであまり実感がなかったですね。でも徐々に島根っていいなあと思うことが増えてきました。人との関わり方だったり、食べ物の美味しさや安さだったり。関東と違って人との繋がりがすごい濃いんですよ。誰かに『この方を紹介してほしい』『こういうことできる方知りませんか?』と周りに聞いたらすぐに繋がれるので、そういうのがすごく有難いですし勢いが面白いです。」
新生活を満喫して、仕事上のこともあり色々な方と繋がっていったという椎名さん。
その後、半年ほどで独立しお店を構えることにしたそうですが、目まぐるしい展開ですね。
「そうですね。会社がやりたい事や目指している経営店づくりと、自分がやりたい店づくりにズレが出てきてしまったんです。会社とも話し合いを重ねて、最終的には『自分で店を作りたいので退職する』という結論に至りました。」
そこからBeerTeriaCNAのオープンに向けて動き出されるのですね。
クラフトビールをメインとしていらっしゃいますが、お店のコンセプトを教えてください。
「『クラフトビールを好きになってもらう店』です。
僕自身クラフトビールが大好きですし、クラフトビールの店に勤めていた経験もあるのですが、クラフトビールを飲んだ事がない人って誰かと一緒のときに初めて飲むことが多いと思うんです。知り合いに勧められて、じゃあ飲んでみようかな、って。そういう方が、クラフトビールの世界を知る入口になれたら嬉しいですね。だからクラフトビールのお店ですが、それ以外の飲み物もいろいろ置いています。
あと、クラフトビールを好きな人にはもっと好きになってもらえるように、国内外の色々なものを揃えるようにしています。季節や状況でラインナップは常に変動するので一期一会なものもありますね。僕の趣味で入れたビールや裏メニュー的なものもあります(笑)」
クラフトビールに馴染みがない方も、ある方も、両方が楽しめるお店ですね。
料理の方はいかがでしょう?
「基本的にはビールに合う料理です。もともとハマった料理を再現したりアレンジしたりするのが好きでしたし、働いてきた飲食店のレシピを勉強してきたこともあって幅は広いですよ。
あとは山陰の食べ物はおいしいので、なるべく地元のものも使うようにしています。猪肉のソーセージとか、牧場のアイスとか、良いご縁があって地域のお店から仕入れさせてもらっているものもありますね。」
山陰の食材を使い、地域のお店と横の繋がりをもち、お客さんへ還元してゆく。素敵な流れができているのですね。
「食事だけじゃなくイベントも色々と考えています。コロナ禍で地域が沈んでいる雰囲気があるので、良いタイミングを見計って他のお店と一緒にイベントを開催できればと思ってます。
また、CNA単独でも、店内にスクリーンがあるのでスポーツ観戦などをおこなってます。お店のスペースをお貸しすることもできるので、なにかやりたい!と思われた方はぜひ相談していただけたらと思っています」
ご自身のお店だけでなく周囲のお店や人と一緒に成長していきたいと意気込む椎名さん。
オープンしたてではありますが、将来の目標や夢などはあるのでしょうか?
「先ほどお話しした『クラフトビールを好きになってもらいたい、広めたい』ということと、あとはこの店を『移住してきた人のコミュニティとか、地域に馴染めるきっかけにしていきたい』と思っています。移住する方はだいたい単身で来て、仕事はあるけど友達はほぼいない状態で始まりますよね。そういう方々が気軽に集まれる場所として活用していけたらな、と思っています。」
同席した市役所の担当者、片木さんがいい笑顔で頷いていらっしゃいます(笑)
片木さん「移住された方のケアは市役所でも課題になっているので、そういうお考えはとても有難いですし、私たちも一緒になってやっていきたいです。」
「この店がもう少し安定してきたら、市役所や商工会議所にそういうお話をしに行きたいと思っていますのでよろしくお願いします。行政と民間ではできることが違いますが、別々で動いてしまうと良くないと思うので、ぜひ一緒に取り組んでいけたら嬉しいですね。」
BeerTeriaCNAというお店のオープンは目的ではなく手段ということですね。これからの進展が楽しみです。
最後に、出雲へのUIターンに興味をお持ちの方々へ一言お願いします。
「うーん、特に……(笑) 出雲をおすすめするつもりもないし、合う合わないだと思うので、まず旅行なりなんなり来てみると良いのではと思います。流れに身を任せるということも大事ですしね。
何かチャンスがあったときに行動できるよう準備しておくとか、このいずもな暮らしの記事を読んだりフェアや旅行に行ってみたりしたときに『少しでもピンときたら行動してみる』というのが良いと思います。それでいい流れや気持ちの変化を感じることがないなら違うだろうし。第六感って意外と参考になりますよ」
奇抜さがありながも居心地のいい店内で、すごく濃いお話しをしてくださった椎名さん。最近では、ご両親も出雲への移住に興味をお持ちだそうです。
導かれるように出雲へ移住し、さまざまな人や物に支えられながら店を構えた椎名さんが、今度は移住してきた方を支える側になる。また、地域の方々とも良い関係を築いてゆく。とても素敵なスパイラルになりそうで、今後のご活躍が楽しみです。
お店のビール入荷やイベント情報は随時Instagramなどで更新しているそうなので、ぜひ検索してみてくださいね。
椎名さん、貴重なお時間をいただき有難うございました。
写真・取材・文 宇佐美 桃子