UIターン者の声

東京と愛知を経てUターン

長島 司さん

関東の大学を出て東京で就職後、教職の道を目指して愛知で塾講師となった長島さん。積んだ経験を地元で活かしたい、と出雲市佐田町へ2022年の3月にUターン。そんな長島さんの地元に対する思いや塾講師にかける情熱、そして今後の展望などさまざまなお話を伺いました。

出雲市駅から車で南西に30分。トンネルを越えた山間部にあるのが佐田町です。長閑で綺麗な空気に包まれているなかにぽつぽつと並ぶ民家と商店。その一角、山を背にした場所にある古民家に、長島さんの経営する「佐田塾」があります。

20223月に愛知県から佐田町に戻り開塾し、地元の学生や保護者の方から頼りにされはじめています。今回の取材では長島さんのUターンへの思いから現在の暮らし、そして塾講師としての挑戦などを伺いました。

 

「元々は公務員になろうと思って関東の大学に進学しました。けれど色々思い直して、卒業後は結局サラリーマンとして働きはじめたんです。そのあとに教育の道を目指そうと思い直して転職も兼ねて募集のあった愛知へ行った、という感じです。」

 

教育の道を志すきっかけは何だったのでしょうか?

 

「『島根の教育はこういうことをやっているよ』という感じのイベントが東京であって、たまたまそれに参加して教育に面白さを感じたのがきっかけですね。

そのイベントでは隠岐の島にある島前高等学校の魅力化の話をしていました。島の外からも人が集まる高校になっていて、元々1クラス40人で定員割れしていたのがアイデアや工夫次第で2クラス開校するまでに至ったとか。人が集まる話を見て、すごく良いなと思ったんです。

その反面、自分の地元の佐田町では高校も廃校になり、どんどん人が流出していました。寂しいという思いと、何か自分にもできることがあるんじゃないかという思いが合わさって、それなら教育で人が集まる地域にしようと思い、塾をつくることを志し始めました。」

 

原動力は地元に対する愛情だったのですね。

 

「そうですね。生まれ育った場所を守っていきたいという思いはありました。やっぱり、何をするにしてもまず人がいないと何も起きませんから。」

 

その後、教職を志して愛知へ移住したとのことですが、場所にはこだわりが?

 

「いえ、たまたま自分が『この塾で経験を積めたら』と思う塾が展開していたのが愛知県という場所にあっただけですね。正直、九州でも北海道でも行っていたと思います。

塾の指導形態として個別とか集団とか色々あると思いますが、今後自分が一人で佐田町に戻り開塾することを思うと、個別指導では見られる人数が限られてしまうと思ったんです。だから集団指導をしている塾を考えていました。」

 

将来を見据えているからこそ、ご自身に合ったノウハウを得ようと考えられたのですね。

その後、佐田町へ戻るタイミングはどのように決定しましたか?

 

「自分である程度経験を積めたら早めに佐田へ戻ろうと思っていたんですけど、ちょうどその頃に感染症が流行していて戻れる状況ではなくて。感染症が多少落ち着くまで1〜2年待ってから動き始めました。」

 

まずは物件探しからスタートされたと思いますが、いま使われているこの古民家はどのようにして見つけられたのでしょうか?

 

「希望としては近くに学校があること、そして広さがあることでした。そうしたらちょうどタイミングよく出雲商工会議所の方に『いい空き家があるよ』という感じで紹介いただけたので運が良かったと思います。場所を決める事で特に苦労はありませんでしたね。

あとは起業時にその商工会で『わくわく島根起業支援事業費補助金』という補助金を申請して創業の後押しをしてもらいました。」

 

長島さんが経営する「佐田塾」、その特徴はどういった点でしょうか?

 

「気軽に寄っていく学びの場という感じの塾という点です。学ぶことを習慣づけてほしいので、子どもたちには学校帰りに1〜2時間寄って行く、くらいの感覚で第二の家のように思ってもらえたらと思っています。」

 

将来的にこういう塾になりたい!という展望はありますか?

 

「最終的にはキャリア教育とか進路指導とか、そういうこともやっていきたいと思っています。先ほどお話した島前の魅力化の件では、子供たちが地域の課題を解決して生きる力を身につけていく…ということを取り組んでいて、自分もこの仕事を通じて生徒たちに『地域で挑戦してもうまくいく』『挑戦する価値がある』ということを伝えて、生徒たち次世代による新しい挑戦が生まれるといいなと思っています。

とはいえまず目先の需要は学力の向上だと思うので、基盤はブレないようにしていきたいですね。」

 

授業としての勉強だけでなく、子どもたち自ら考える力をつけるようにするのは大切なことですね。

長島さんご自身の働き方や生活は、関東にいたころ(サラリーマン時代)と比べていかがでしょうか?

 

「収入は下がりましたけど、精神的にはすごく楽になりました。サラリーマン時代は拘束時間も長かったですし、予備校で働いていたときも塾という性質上、夜は日付変わるくらいまで働いていました。精神的に病んで休職や退職する人も多く、戻りたいかと聞かれるとそれはちょっと…となりますね()

その時に比べるとのびのび生活できています。」

 

今はどのようなタイムスケジュールで生活をしていらっしゃいますか?

 

「子どもたちが来る夕方までは基本的に事務作業をおこなっています。カリキュラムを考えたり、入試やテストの分析をしたり、授業づくりがメインですね。

あとは塾自体のプロモーションというか、周知してもらうためにインスタやブログを更新したり周知の試行錯誤をしたりしています。」

 

学校が平日になるので、基本的に土日がお休みになるかと思います。Uターンしたことでお休みの日や趣味に影響はありましたか?

 

「趣味自体はサラリーマン時代のほうが時間を使えていたかもしれません。仕事は仕事、私生活は私生活、といった感じできっちり時間が分かれていたので。とはいえ仕事の面では、当たり前ですけど自分のやりたくない事もやらなければいけなかったのが結構苦痛で。今は仕事も私生活もすべて自分のため(=塾のため)に使えるので、毎日がすごく楽しくて充実しています。」

 

行動のすべてが、ご自身で開いた塾のためになってゆくのはやりがいがありますね。

そんななかで外出する機会も多いと思いますが、佐田町の印象はUターンしてから変わりましたか?

 

「スクールバスに全然子供が乗ってないな、と驚きました。

あとは『佐田町を活性化するために』みたいな発表会があるのが興味深かったです。もしかしたら昔からあったのかもしれないですけど…。全体的に人口は萎みつつありますけど諦めや見て見ぬふりをする空気じゃなく、『やばいから何とかしよう』と当事者意識をもって町の運営に当たる人が増えている気がしました。」

 

そして長島さんもそんななかのお一人にあたる訳ですね。

 

「地域ぐるみの活動はこれからですが、そうですね。やはりこの土地を大切にしたいなと思っています。」

 

長島さんが大切にしたいと思う出雲市(佐田町)の魅力はどのような点でしょうか?

 

「良い点と悪い点は表裏一体だと思うんですけど、『人間関係が濃い』という事じゃないでしょうか。例えばお隣さんから野菜をいただくとか、一種の文化ですよね。

あとは都会に居ると同じ好きなものを持つ者同士で集まる事が多いんですけど、田舎は集団形成が先にあるので必然的に色々な年代や考え方の人と付き合うことになると思います。

煩わしいときもありますし、それが嫌で都会に行く人の気持ちも分かりますけど、色々な人の価値観に触れるのは人生を歩むうえでいい経験になるんじゃないかなと思いますね。」

 

人間関係が濃いというお話が出ましたが、そういったことで長島さんはUターンをして「よかったな」と思うことはありましたか?

 

「月並みですけど、必要とされている感じが大きいということです。たとえば都会だったら分母が大きいので人に埋もれがちですけど、こっちに来たら人数が少ないぶん一人一人の存在感が大きく、また、塾という仕事もあって必要とされているなと強く感じる事があります。

たとえば現在、小〜中学生を指導しているんですけど、高校生のお子さんをもつ保護者の方が『高校生もみてもらえますか』と訪ねてきてくださったのは嬉しかったですね。」

 

どんどん長島さんの存在が地域で強まっているのですね。

 

「今は自分一人で経営しているので、ご要望やご相談に応じて臨機応変に対応できるという点もこの塾の強みだと思っています。」

 

有難うございました。

最後に、Uターンをお考えの方へメッセージをお願いします。

 

Uターンを考えている方は基本的に都会からだと思います。ご自身が生まれ育った十数年くらいのなかで田舎の不便な点は絶対に感じていたと思うので、それを踏まえたうえで挑戦したいことがあればやってみてほしいと思います。起業についても田舎は無いものが明確なので、そこに商機やチャンスを見つけたら行動してみたらいいのではと思います。」

 

 

 

 

 

都会での暮らしを経て視野が広がり、経験を積み、教育という手段で地元活性化のためにUターンをした長島さん。その根本にあるのは地元への愛着です。人を増やして地域を賑やかにしたいという展望をもちつつ、まずは地盤強化から。子ども達に合った最適なカリキュラムを練り、塾を居心地の良い「第二の家」にして通ってもらうべく日々試行錯誤しています。

真摯に受け答えをする長島さんの姿から、今後の取り組みやそれに伴う地域の活性化が非常に楽しみな取材となりました。

 

長島さん、貴重なお時間をいただき有難うございました。

写真・取材・文 宇佐美 桃子