国造り
ヤガミヒメとオオクニヌシが結ばれたことを知った兄弟神は、嫉妬にかられた挙句にオオクニヌシを殺そうと考えます。
因幡国からの帰り道、伯耆の国で「この山に大きな赤い猪がおる、わしらは山から追ってくるので、お前は下でそれを捕まえろ!逃したら殺すぞ!」と言われたオオクニヌシ、
山の麓で猪を待っていると大きな赤い物体が転がってきました。
「猪だ!」
そう思ったオオクニヌシは、それを抱きかかえ捕まえますがそれは猪ではなく、兄弟神が山上で焼いた真っ赤な大きな岩でした。
この大火傷でオオクニヌシは死んでしまいます。
これを知った母神サシクニワカヒメノミコトが天上のカミムスビノミコトにお願いをして、赤貝のキサガイヒメと蛤のウムギヒメを遣わし治療をさせると、オオクニヌシは元通り元気な体になられたそうです。
これを見た兄弟神たち、作戦が失敗したことを知ると直ぐに次の策を考えます。
今度は山中深くに騙して誘い、大きな木に挟み殺してしまいます。
このときも母神が生き返らせますが、「このままだと本当に兄弟たちに殺されてしまう。さあ早くお逃げなさい。」と紀伊国のオオヤビコノカミの元へ逃がしました。
ところが、兄弟神たちはそんなことでは諦めません。
紀伊国まで追いかけ殺そうとします。
ここまでする兄弟神を見た母神はスサノオノミコトがいる「根の堅州国」へ逃げる様にと伝えます。
そして、根の国に渡ったオオクニヌシは、そこで美しい姫神でスサノオノミコトの娘神スセリヒメと恋に落ち結ばれます。
「なんと美しい姫…。」
「なんて素敵なおひと…」
しかしオオクニヌシがどうにも気に入らないスサノオノミコトは、オオクニヌシに様々な試練を与えます。
最初の試練は「蛇がたくさんいる寝室で寝る」でした。
大事なオオクニヌシに何かあっては大変と、スセリヒメは「蛇が襲ってきたら、このひれを三回降れば大丈夫」と言い、呪力を持った布を渡します。
これでオオクニヌシは無事に一つ目の試練を乗り越えました。
次は「ムカデとハチがたくさんいる寝室で寝る」でしたが、これもスセリヒメノの計らいでクリアします。
与えた試練を次々にクリアするオオクニヌシを見たスサノオノミコト、次は広い野原に向かって矢を放ちます。
「あの矢を拾ってこい」と命じ、オオクニヌシが野に入るとスサノオノミコトは、その野原に火を放ったのです。
オオクニヌシが「もはやこれまで」と諦めかけると、ネズミが現れ「中はほらほら、外はすぶすぶ」と告げ、地面の下に空洞があることを知らせます。
オオクニヌシが足元をドスンと踏むと、空洞があり、その中でどうにか炎をやり過ごし助かります。
さらにそのネズミはスサノオノミコトが放った矢を探してきてくれました。
それを知らないスセリヒメは、オオクニヌシが死んだと思い、泣きながら葬儀の準備をしていました。
もちろんスサノオノミコトも「これでさすがに死んだだろう」と思っていました。
そのとき、手に矢を持ちオオクニヌシが現れました。
しかしそれでもまだ、スサノオノミコトは試練を与えます。
スサノオノミコトはオオクニヌシを広い寝室に招き「ワシの頭のシラミを取れ!」と命じます。が、スサノオノミコトの頭にはシラミではなくムカデが…
そこにまたまたスセリヒメが現れ、ムクの実と赤土を渡しました。
オオクニヌシはこれを口に含んで吐き出しを繰り返します。
これを見たスサノオノミコトはムカデを口の中で噛み潰していると勘違いし、感心します。
心を許したのか、眠気に勝てなかったスサノオノミコトはそのまま眠ってしまいました。
眠りこけるスサノオノミコトを見たオオクニヌシは、 「ここぞチャンス!」とばかりに、スサノオノミコトの長い髪を部屋の大きな柱に結びつけ、大きな岩で入口を塞ぎ、スセリヒメを背負い逃げだします。
その手にはスサノオノミコトの宝物の太刀、弓矢、琴を持っていました。
「やれやれこれで逃げ出せた」と安心したその時、手にしていた琴が木にあたり、大きな音が鳴り響きました。
この音を聞いたスサノオノミコトは、慌てて飛び起きましたが柱に結びつけられた髪が邪魔で追いかけられません。
その間にどんどん逃げるオオクニヌシ、髪を解いて追いかけるスサノオノミコト。
地上との境まで追いかけたスサノオノミコトは、オオクニヌシに向かってこう叫びました。
「お前が奪った太刀と弓矢で兄弟神を追い払い、スセリヒメと結婚し大きな宮殿を建てて住め!」
スサノオノミコトはついにオオクニヌシに、この大国の大王になれといい、試練に打ち勝った娘婿と認めたのです。
オオクニヌシはスセリヒメを正妻とし、出雲の国造りを始めます。
しかし、最初に結ばれたはずのヤガミヒメは、そんな現実を知るわけもなく臨月が近付いたので、愛しのオオクニヌシに会うため、因幡国から出雲国を訪れます。
長く険しい旅の道中、宍道湖を船で渡る際に山あいに湯気が立ち昇るのを見つけた姫は、そこに温泉があることを知ります。
その湯が日本三美人の湯の一つ「湯の川温泉」です。
この湯に浸かり、長旅の疲れを癒された姫はいっそう美人神になられたと伝えられています。
しかしヤガミヒメは嫉妬深い性格のスセリヒメを恐れ、泣く泣くオオクニヌシを諦め因幡国へお帰りになりました。
帰りの道中に産気づき、出産しましたが、その御子神は木の俣にかけて置いていかれたそうです。
愛する旦那様を諦め、最愛の我が子を手放し、身も心も疲れ果てた姫は、帰り際再び湯の川温泉の湯に浸かられ、傷ついた心と身体を癒されたということです。
「火の山の ふもとの湯こそ恋しけれ 身を焦がしても妻とならめや」
湯の川温泉で傷心の姫の心をなぞらえて詠んだ歌です。