UIターン者の声
韓国からIターン
崔 孝先(ちぇ ひょうそん)さん
韓国で生まれ育ち、高校卒業と同時に一人で日本へ移住し京都芸術大学へ入学した崔さん。広島での就職を経て出雲へIターンをし、現在はデザインやイベントプロデュースをおこなう会社でデザイナーとして勤務しています。 幼い頃から日本が好きだったと語る崔さんですが、留学生活やコロナ禍で大変なことも多かったといいます。留学やIターンのキッカケ、苦労したこと、出雲に対する思いや今後取り組みたいことなど、さまざまなお話を伺いました。
以前、こちらの記事で掲載した佐藤さんが勤めている「株式会社ビリーフ」。デザインやイベントの企画実施を通じてビジネスの拡大や地域活性のお手伝いを行っており、今回ご紹介する崔(ちぇ)さんもデザイナーとして活躍しています。
出雲弁はまだ勉強中だそうですが、その日本語はとても上手で母国語のように流暢です。加えて勉強熱心で、楽しみながら出雲の歴史や文化を調べているとのこと。
現在は出雲に来て約1年が経ち、仕事も私生活も充実した日々を過ごしている崔さん。
出身は韓国とのことですが、日本へ移住するキッカケは何だったのでしょうか。
「もともと小さい頃からセーラームーンやポケモン、ガンダムなど日本のアニメや漫画が大好きだったんです。日本で流行っているものは全部韓国にもあったので、日本という国を身近に感じていました。その流れで日本のデザインも好きになって、感性を勉強したいなと思ったのがキッカケです。高校を卒業したあとに京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)へ入学しました。」
一人暮らしと留学と同時だったのですね。どんな点が大変でしたか?
「高校三年生のとき授業で日本語がありましたし個人的にも勉強してきたつもりでしたが、留学先が京都なので京都弁が全然分からなくて苦労しました(笑)最初の一年はあまり友達もできませんでしたし、授業も家に帰って日本語を調べるところから始めていたのでかなり大変でしたね。
あとは文化の違いにも戸惑いました。家を探す時には『礼金って何?』『ぼったくりじゃないのかな』と戸惑ったり、治安の良し悪しが分からなかったり。家の構造に関しても、韓国だと床暖房がある家が多いのですが、日本はヒーターが主体なので寒い思いをすることもありました。
ただ、食に関しては全然問題なかったです。日本食がすごく好きで、むしろ太ったくらいでした。実家に帰省したときも親に『元気そうだね』って言われるくらいです(笑)」
やはり言葉や文化の違いは慣れるまでが大変ですよね。
興味をもってデザインの道へ進んだことと思いますが、日本と韓国のデザインの違いはどんなところにあると思いますか?
「日本のデザインはすごく繊細ですね。外側だけではなくてパッケージの内側とか、ちょっとした遊び心とかで見た人を楽しませる仕掛けが多いと思います。あと地域文化でデザインの違いが出ているので面白いです。韓国のデザインも好きですけど、日本のように京都、北海道、奈良、東京…みたいな土地ごとの特色は薄いと思います。」
確かに日本は土地や街ごとの違いがデザインにも色濃く反映されていますよね。
デザインを勉強し、学校を卒業した後はどのような進路を選択されたのでしょうか?
「友達もできて日本の暮らしが楽しかったので、このまま住み続けたいなと思っていました。在学中に付き合っていた今の旦那が広島出身でUターンするということでしたし、今後のことを考えて一緒にIターンして広島でデザイナーとして就職しました。」
どのような会社だったのでしょうか。
「自動車のカスタムパーツを販売している会社でした。webショップの画像やカタログなどを作っていましたが、車のパーツのことは全然知らなかったので楽しかったですし勉強になりましたね。だいたい4年半くらい働いていました。20代後半になってそろそろ結婚しようかという話になったときに、一度韓国に戻って家族と過ごしたかったので退職することにしました。」
結婚したらそのまま日本に住み続けることになりますものね。
「そうですね。両親や妹も歓迎してくれたので実家で三ヶ月くらいゆっくり過ごそうかなと思って韓国へ帰国しましたが、そこでタイミング悪くコロナが拡大してしまって…。」
日本に戻れなくなってしまったのですね。
「そうなんです。当時は入籍もしていなかったので、ビザも下りなくて。長引きそうだったので韓国で日本語の通訳などをしながら過ごしていましたが、一年くらい待ってみてもなかなか収束しなかったので不安になりましたね。両親も『(お互いの国の役所に書類を提出して)形だけでも入籍してビザを取ったら?』と心配してくれましたけど、2人で一緒に婚姻届を提出しに行きたいというロマンがあって踏ん切りがつかず…。
でも結局痺れを切らして、お互いの国で書類を提出するという形で入籍してビザを取りました。結果的に3ヶ月のつもりが約3年になって、こんなに長くなるとは…という感じです。」
思いもよらない分断期間となってしまいましたね…。
その後ようやく広島で旦那さんと合流できたことと思いますが、出雲に移住するキッカケは何だったのでしょうか。
「もともと旦那の両親が出雲のことが大好きだったんです。広島に居たときから何度か一緒に出雲大社へお詣りに来ていたこともあり、良い街だなと思っていました。その義両親がいま転勤で出雲市に住んでいるんです。『定年を過ぎても家を建ててそのまま出雲に住みたい』と話をしていて、それなら私と旦那も近くに住めたらいいね、ということで出雲へ移住することに決めました。」
韓国から京都、その後広島、出雲へのIターン。慣れ親しんだ場所を離れることが多いですが、不安などはありませんでしたか?
「あまり心配していませんでした。もちろん嫌な思いをすることはあると思いますし実際ありますが、それ以上に良くしてくださる方も多いですし、どこへ行っても一緒だと思うので。『出雲に行ってもきっと良い方に会えるんだろうな』『出雲で頑張ってみたいな』という気持ちのほうが強かったです。」
どこへ行っても一緒、確かにですね。
最初に出雲へ来たときの街の印象はどのようなものでしたか?
「コロナ前なので7年くらい前になると思うんですけど、すごく空が綺麗だなと感動しました。街中とは違って空が広く、気持ちが明るくなる気がしますね。あと自分は人混みが苦手なので、道でも店でもギュウギュウになることがないのが嬉しかったです。ゆったり平穏に過ごせるのがいいなあと思っていました。」
そして約1年前の2022年10月に出雲へ移住となったのですね。
実際に暮らしてみた感想や出雲の魅力がありましたら教えてください。
「京都や広島とは雰囲気が違って楽しいです。街中を歩くだけでも色々な発見があるので、散歩が趣味になりました(笑)あとは街の人がすごくフレンドリーだなと感じることが多いですね。郵便局の方やコンビニの店員さんが話しかけてくださったり、隣の家の人と挨拶や世間話をしたり。全体的に心の余裕がある感じがします。
それと旦那は釣りが好きなので定時後よく釣りに行っています。つい最近、私も生まれて初めて装備を整えて一緒に行ってみましたが、すごく楽しかったのでハマりそうです(笑)」
出雲は素敵な釣りスポットが多いですよね。ご近所付き合いをしたり趣味が増えたりして、出雲での生活を満喫されていらっしゃるとのことで何よりです。
その後ビリーフさんへ入社となりましたが、どのような経緯だったのでしょうか。
「通訳の仕事もいいなと思う反面、やっぱりデザインで何かをつくる仕事がしたいなと思ってたんです。それで出雲に来てから市役所のUIターン支援窓口でデザイン系の仕事ありますかと相談したら色々な求人を見せてくださり、その中にビリーフがあって…という流れですね。市役所の方々には会社見学に同行してくださったり、履歴書や経歴書も見てくださったりして、すごく親身にしていただきました。
最終的に一番自分がやりたいグラフィックの仕事に近いなと思ったのがビリーフだったんです。今はパンフレットやチラシの制作などを担当しています。」
入社して三ヶ月が経過されましたが、会社でのお仕事はいかがですか?
「皆さんすごくフレンドリーで、分からないことがあっても丁寧に教えていただけるのですぐ馴染めました。たまに出雲弁が分からないときも『こういう意味だよ』と教えてもらえるので有難いですし、いつか私も使ってみたいなと機会を狙っています(笑)
それと業務の中で色々なイベントに関わっていくことが多いので、知らない地名や神話などの文化を勉強できるのは楽しいです。神様の名前は馴染みがなくて分からなくなるので帰宅後に自分で調べて表にしてみたりもしました。」
すごく勉強熱心ですね!
今後やってみたいこと・将来の目標などはありますか?
「もっと色々と出雲のことや山陰のことを知って、そのうえで韓国の人に向けて出雲の魅力をYoutubeやSNSでアピールしていきたいです。東京や京都には行く人が多いと思いますが、移住した私ならではの視点で『出雲だってこんなに素敵なんですよ』と魅力を発信できたらいいなあと思っています。それでどんどん観光客や移住する人が増えて、出雲空港から直通で韓国便ができたら最高ですね(笑)
それと趣味で絵を描いているので、それも出雲のPRに活かしていけたらと思ってます。」
米子空港には韓国との直通便がありますが、出雲空港には無いですものね。人の行き来が増えれば便が増える可能性はありますし、今後が楽しみです。
それでは最後になりますが、同じようにIターンを考えている方に向けてコメントをお願いします。
「私は出雲のことを詳しく調べないまま移住しましたが、来てみたらすごく楽しかったのでとにかく一回来てみるのがおすすめです。UIターンのイベントやバスツアー、移住の補助や制度もあるので活用するのも手ですね。
市役所には縁結び定住課があるので、移住に興味があったら立ち寄ってみたり不安なことを相談したりすることで自分の気持ちが見えてくることもあると思います。色々なものを頼って、まずは動いてみるといいのではと思います。」
出雲での生活が肌に合っていて毎日すごく楽しい、と明るい笑顔を見せる崔さん。さまざまな苦労や想定外の出来事も前向きに捉えて話す姿が印象的でした。また、出雲と韓国の架け橋になる取り組みも考えていらっしゃるようですので今後のご活躍が非常に楽しみです。
国内だけでなく国外にも出雲が好き!という方が増えて、交流していくことができたら素敵ですね。
出雲はどんどん新しいお店ができたり、さまざまなイベントが開催されたりしています(もちろん崔さんの勤務先、ビリーフさんが運営するイベントも!)。仕事も趣味も、たっぷりと出雲生活を満喫してください。
崔さん、貴重なお時間をいただき有難うございました。
写真・取材・文 宇佐美 桃子