プリンIターン女子 会員No.129

2025.06.10

アマルフィー

海の匂いが風に溶け、坂の上から港町を見下ろすと、まるで映画のワンシーンのようだった。
家々が隙間なく山肌に寄り添うように並び、そのすぐ目の前には限りなく青い海が広がっている。
イタリアを訪れたことはないが「小伊津(こいづ)」を山陰のアマルフィーと呼ぶのもわかるような気がする。

観光地として整備された場所ではなく、ありのままの日常が息づく風景。トンビが風をとらえて旋回しながらゆっくりと空高く舞い上がっていく。静かな漁港には、どこか懐かしさの漂う、のどかな時間が流れている。
そんな中、散歩中の年配の男性に声をかけられた。軽く挨拶を交わしただけのつもりが、それをきっかけに堰を切ったように昔話がはじまる。県外ナンバーだったこともあったのかもしれない。今は立派な道路が通っているが、かつては目の前の山に狭くて細いトンネルがあり、車が通るたびに歩行者は壁に身を寄せてやり過ごしたという。

話は地元の神社のこと、そしてこの地に息づく信仰の話にも及んだ。
島根半島には「四十二浦」というものがあり、それぞれの浦で海水を汲み一畑薬師に奉納する習わしがあるのだそう。神仏に近い海の力を借りて、願いや祈りを届ける意味があるのだろうか。
ひとしきり話をしたあと、照れくさそうに笑いながらご自身の話をされた。こないだの結婚記念日に奥様が「生まれ変わってもあなたと結婚したい」と仰ったのだとか。思わず微笑んでしまう。あたたかく、やさしく流れる時間。気がつけば立ち話のまま1時間が過ぎていた。別れ際、足元にすり寄ってきたのは、このあたりで暮らす地域猫。人懐こくて、撫でるとゴロゴロ喉を鳴らす。港町に猫、なんとも似つかわしい。

2025.05.30

出雲弁⑰

出雲弁で書いてみよう。
こーであちょーかいねぇ(これであっているかな)?

旬のもんをお裾分けしてもらう機会がようけある。
これが田舎の特権ってもんだわ。

旬は皆一緒な時期だけん大抵は重なって、どっさりもらーことんなる。そーでも「せっかくの好意はことわーだないで。ことわーと来年はもうもらえんようになるで」って親に教えられとるけん、ありがたく頂戴すーことにしちょー。

「まげな(立派な)タケンコ、
 あばかん(沢山)まーました(もらった)けん、
 煮しめか、タケンコご飯すーだわね。
 えっと(沢山)食ってごしなはいよ」

こげに声かけてまーと、心まであったこうなるがね。

 

2025.05.19

おうちごはん

出雲市にある「おうちごはんcafe豆花」。
店内には2人掛けのテーブル席が4つと、多人数で囲めるテーブル席が1つ。
はじめてでも、ふっと力が抜けるような、そんな安心感がある。

メニューは、野菜たっぷりのおかずに、玄米ごはん、お味噌汁。
派手さはないが、ひとつひとつに丁寧さを感じる。栄養バランスが整っていて、ここで毎日ごはんを食べたら間違いなく体が整っていくんだろうなと感じる。大盛りごはんに慣れている人には、少し物足りなさを感じるかもしれないが、手間ひまを惜しまず作られた料理は、食べるひとを想う気持ちが伝わってくる。

ドリンクセットメニューも嬉しいポイント。ごはんを食べ終わったあとも、すぐに席を立つのがもったいなくなるような時間が流れている。決して特別なごちそうではないけれど、また来たいと思わせてくれる、そんな場所。


おうちごはん cafe 豆花

出雲市今市町120-6

2025.05.08

虹が滝

ゴールデンウィーク中頃。夕方から激しい雨が降った。
翌日は晴れ予報。こんなとき、雲海が発生する可能性がぐんと上がる。
市内を見下ろせる場所を地図で探していたら、ある言葉が目に留まった。

「虹が滝」

少し期待しながら地図の投稿写真を開く。
滝壺に小さな虹がかかっている写真がいくつかある。
滝壺の方角と太陽の位置を確認すると、午後には虹が見えるかもしれない。
行ってみる価値はある。

翌日は快晴の予報だったものの、明け方の空には思いのほか雲が残っていた。
期待していた雲海の姿はみられず、少し残念な気持ちに。午後からの「虹が滝」に希望をつなぐことにした。

目的地へ向かう山道は、離合も難しいほどの細さ。枝葉や草が路面に覆いかぶさり、びっしり苔に覆われ緑になった路面も。空気はひんやりと湿っている。そんななか、少し開けた明るい場所にでると、「虹が滝」の看板が目に入った。案内に従って沢へと下り、滝の音を頼りに歩くこと5分。思っていたよりも水量が多く、勢いよく流れ落ちる滝に到着。木々の隙間から、滝の飛沫に陽が差込み、小さな虹がふわっと浮かんだ瞬間、なんともいえない嬉しさが込み上げた。


虹が滝

出雲市多久谷町1216

2025.04.30

出雲弁⑯

銀行で、高齢の男性が行員に向かってこう話していた。
「ええにょばに どまかされて ててぽっぽですわ 笑」

「ええにょば」は「美人さん」を意味する出雲弁。
鳥取でも年配の人が使うため、意味はすぐに理解できる。
問題は「どまかされて」「ててぽっぽ」の部分。文脈から想像しにくいため、出雲弁に詳しい友人に確認した。

「どまかされて」は「騙されて」、「ててぽっぽ」は「無一文」の意。つまり意味は、「美人さんに騙されて、無一文になってしまいましたわ 笑」

高齢男性の冗談で、目の前の若い女性行員に「君が美人だから、つい大金を預けちゃいそうだ」と笑いを取ったものと推測。おじいちゃん若いな。
行員は意味がわからず戸惑いながらも、笑顔で応対していた。方言って知らなければ通じないが、知れば一気に距離が縮まる不思議な力があるよね。

 

2025.04.20

焼肉むべ

出雲市駅から徒歩3分。
「焼肉むべ」へ行ってきた。店内は温かみのある内装で落ち着いた雰囲気。座敷に案内され、靴を脱いでゆっくりくつろぎながら注文。

まずはサムギョプサル。厚切りの豚バラ肉が鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てる。自分でハサミを使って肉を切るスタイル。ちょっとしたライブ感があり楽しい。焼き上がった肉をサンチュに包み、キムチやニンニク、ネギ、味噌と一緒に巻いて食べる。ジューシーで香ばしく、野菜のシャキシャキ感と合わさって、何個でも食べれる美味しさ。

次にビビンバ。ご飯とナムルを一緒に箸で食べようとしたら、コチュジャンごと全体をスプーンでよくかき混ぜて食べるのだと教わる。韓国語で「ごはん」は「パ(밥)」と発音するのだそう。「ビビンバ」は正確には「ピビンパ」と呼ばれ、「混ぜるごはん」という意味になる。ちなみに「クッパ」は韓国語で「スープごはん」の意味らしい。

焼肉メニューには、地元、島根県産のしまね和牛が使われている。ホルモンやレバーも新鮮でクセがなく、噛むごとに旨味が広がる。上質な焼肉と韓国料理の両方が本格的に楽しめるのがこの店の魅力だ。

接客も丁寧で、料理の説明やおすすめも気さくに教えてくれる。初めてでも居心地が良く、地元の常連さんが多いのも納得だ。家でごはんを食べる感覚に近いのかもしれない。次回はさらに多くのメニューを制覇したい。店名の由来も気になるところ。「むべ」って果物の名前だったような。次回ママさんに聞いてみよう。


焼肉むべ

出雲市今市町971-24

 

 

2025.04.08

不老山荘嚴寺

移住して間もない頃、土地勘もなく道に迷うことが続いた。
ナビに頼らず、何とか自力で帰ってみようと決めたその日は、思わぬ遠回りが待っていた。あれは、1年前の春のこと。

国道431号線を北山沿いに走っていると、突然目に飛び込んできた光輝く大樹。その美しさに心を奪われ、私は車を引き返すことにした。たどり着いたのは「不老山荘嚴寺」。寺の入口には金剛力士像と羅漢像が立ち、私が近づくと、センサーが反応し、灯りが静かにともった。その灯りに導かれるように、目にしたのはライトアップされた「枝垂れ桜」。その姿に思わず息をのんだ。

この桜は、80年前に焼失した親木の孫生(ひこばえ)だという。現在の見事な枝振りと、花のつきからは信じがたいが、かつては樹勢が衰えていた時期もあったのだそう。近年は樹木医と寺を見守る人々の手によって、再び見事な花を咲かせるようになったという。

今年はこの季節、あえて遠回りして帰路につく。そしてついにその日がやって来た。桜は満開になり、その美しさを私に見せてくれた。裏山では、時折鹿が「ピーーー」と鳴き、静けさの中に響く音が心地よい。人が少ないこの場所では、ゆっくりと桜を眺めることができる。ここは、私のお気に入りの桜スポット。心が安らぐ、そんな場所だ。

2025.03.27

出雲弁⑮

「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉どおり、
春だというのに昼間は半袖でもいいくらい。

このあいだまで寒い寒いと暖房をかけていたのに、冷房が必要だ。
梅の花も旬を過ぎて桜が色づき始めている。

ご年配の方の井戸端会議が面白かった。
濃い出雲弁が理解できるようになったので、いつか混ぜてほしい 笑

 

Aさん「ま、なんと、ひーまはぬぅくんなーますたなー」
Bさん「まほんに、あげでございますなー。
    ふがんが過ぎましたけんなー。
    だーも、よーはまんだまんだ、さみですがー」


解説

Aさん「昼間は暖かくなりましたね」
Bさん「本当にそうですね。
    彼岸が過ぎましたからね。
    でも夜はまだまだ寒いですね」

 

2025.03.24

ダルマさん

「今日はダルマになりそうだ」
そんな確信を抱きながら、海岸沿いに足を運んだ。

ダルマとは、水平線上で太陽が丸いダルマのように見える現象のこと。光が大気中で屈折することで起こるのだが、何度見ても不思議な光景。朝日で狙うときは、水平線に顔を出す太陽の位置を特定するのにアプリを頼るが、夕日の場合は見えているので狙いやすい。

ダルマが見れる条件がいくつかある。

 ・晴れ
 ・風が穏やか
 ・空が澄んでいる

空気が乾燥して澄んでいる冬や秋はダルマが見やすい。

この日は、風は穏やかで、空はすっきり晴れていた。
波の音が心地よい。太陽の高さが低くなるにつれ空の色がオレンジから赤へ変わっていく。少しの緊張感と期待を胸に、望遠レンズ越しにカメラのピントを合わせる。太陽が水平線に近づくその瞬間、もうひとつの太陽が海面から顔を出す。2つの太陽がくっつくと、大きなダルマが浮かび上がる。この神秘的な瞬間は、なかなか言葉では表現が難しい。

さらに、もし運が良ければ「グリーンフラッシュ」という現象にも出会えるかもしれない。太陽が完全に沈む直前、ほんの一瞬だけ、太陽の上部が緑色に輝く現象だ。過去に一度だけ拝むことができたので、この日も最後までシャッターを切ったが、残念ながら叶わず。いつか出雲の海でその瞬間を体験してみたい。

帰ろうかと東の空を見ると、月が昇りはじめていた。
地平線に近いところでは、レイリー散乱効果によって月は赤く染まって見える。最初は深い赤、そして徐々に色が変わり、巨大なタコ焼きが空に浮かぶ。
お腹すいたな。帰りにタコ焼き買って帰ろう。

2025.03.19

海辺の図書館

日々の忙しさに追われ、自分の時間をゆっくり過ごすことが少なくなった。

以前は朝1時間早く出勤して、コンビニで買ったカフェラテを飲みながら、餌場にやってくる白鳥をのんびり眺めるのが冬の朝の定番だった。休日には、映画を観たり、撮影やドライブを楽しんだり、図書館で本や雑誌を物色したり、充実した時間を過ごしていたように思う。

久々の連休、会社の先輩に勧めたれた「海辺の多伎図書館」に行ってみることにした。実際に訪れてみると、予想以上のロケーション。蔵書は思ったより少なかったが、お目当ての海を眺めながらのカウンター席が魅力的だった。残念ながら学生たちで満席。静かに勉学に勤しむ向こう側に、今まさに夕日が沈もうとしていた。

使用目的を伝え、撮影可能か確認したところ、館内は撮影禁止とのこと(外テラス席は撮影可)。美しい光景をお伝えできないのが悔しい。こんな素敵な空間で学んでいたら違った未来があったかもしれないとさえ思う、なんとも贅沢な学びの場だ。

出雲市には7つの図書館があり、どの図書館で借りた本でも他の図書館に返却できるとのこと。休館日でも返却ポストがあるので利用しやすい。ちなみに、出雲市内の図書館は以下の通り。

  • 出雲中央図書館
  • 平田図書館
  • 佐田図書館
  • 海辺の多伎図書館
  • 湖陵図書館
  • 大社図書館
  • ひかわ図書館

インターネット予約サービスや、ネットでの蔵書検索もできる。バーコードやICカードが主流になった今の図書館。便利にはなったけれど、アナログ時代のあの温かさが恋しい方もあるのではないだろうか。「耳をすませば」の主人公の雫ではないが、本の裏表紙に差し込まれたカード。あれはあれで物語があった。同じ名前に何度か遭遇すると、そのひとの本の選び方に興味をもったり、先を越したり、越されたり。ひとときのミステリーのような感覚が楽しかったものだ。

さて、今度はどこの図書館に行こうかな。
どうせなら7つ全部制覇するか。


海辺の多伎図書館
出雲市多伎町小田73-1

Iターン女子 会員No.129

プリン

鳥取からきました。移住者目線で日々の暮らしを綴っていきます。立派な地元民になるべく発見探検するぞ。