プリンIターン女子 会員No.129

2025.06.30

出雲弁⑱

今回は、ビジネス編。

ビジネスメールでよく使う、「ご対応いただけると幸いです」。
全国どこでも通じる、いわば丁寧な正解のフレーズ。

しかし出雲ではこういう表現が多く使われる。

「ご対応いただけると喜びます」。

ぱっと見、ちょっとフランクに聞こえるかもしれない。でも、実はとても丁寧なお願いの言い方。出雲では、「〜してくれたら嬉しいです」の代わりに「喜びます」を使うことが多い。ここでいう「喜びます」は、感情の喜びというより「ありがたい」「助かる」といった、お願いと感謝やお礼の気持ちが込められた、とても柔らかい表現のように思う。

また、誤解しやすいこんな言い回しがある。

「この資料、なおしといて」


「なおす」=片付ける・しまう

出雲弁では、片付けておいて、という意味が、標準語では「なおす」=修正すると捉えがち。
資料を片付けてほしいだけなのに、赤ペン修正された資料が手元に戻ってきた、なんてこともあるかもしれない 笑
方言ではなく、標準語だと思って使っているひとが意外と多いようだ。検索してはじめて気付く面白さ。言葉もさることながら、イントネーションの抑揚もかなり独特なのだが、県外のお客様に電話対応しているときの、なんちゃって標準語に思わず笑みがこぼれる。

2025.06.20

蔵カフェ

静かな通り沿いに、白く美しい蔵が佇んでいる。
「cafe naka蔵(なかくら)」

その建物は、100年以上前の米蔵をリノベーションされたのだとか。
開店前だというのに店の前には行列ができている。駐車場には県外ナンバーもチラホラみられ、人気の高さがうかがえる。

一歩中へ入ると、空気が一段やわらかくなるのがわかる。
高い天井に太い梁、木のぬくもりある温かな内装。ゆったりとジャズが流れ、まるで映画のワンシーンのよう。

席の選び方ひとつで、過ごし方が変わるのもこの店の魅力だ。
カウンターでは、店主が丁寧にハンドドリップする様子を眺めながら、コーヒーの香りに深呼吸。テーブル席では、椅子のきしむ音さえも心地よく、窓際のソファ席は、まるで小さな書斎のようで、ただ静かに過ごすための贅沢な場所だ。

料理がまた、心を打つ。
旬の野菜が、これでもかと美しく鮮やかに盛られたモーニングプレート。
目で見て、香りで感じて、口に運ぶたびに味の奥行きに驚かされる。正直野菜は苦手なのだが、ここのプレートは不思議と美味しくいただける。そして自家製のドレッシング。バランスが絶妙で、「この味、家でも楽しみたい」と思わず持ち帰りたくなる。
食後には、こだわりのハンドドリップコーヒーを一杯。豆の香ばしさと、柔らかな余韻。「まだ帰りたくないな」と思ってしまうが、次のお客様へはやく席を譲らねば、だ。


cafe naka蔵

出雲市今市町 中町689

2025.06.10

アマルフィー

海の匂いが風に溶け、坂の上から港町を見下ろすと、まるで映画のワンシーンのようだった。
家々が隙間なく山肌に寄り添うように並び、そのすぐ目の前には限りなく青い海が広がっている。
イタリアを訪れたことはないが「小伊津(こいづ)」を山陰のアマルフィーと呼ぶのもわかるような気がする。

観光地として整備された場所ではなく、ありのままの日常が息づく風景。トンビが風をとらえて旋回しながらゆっくりと空高く舞い上がっていく。静かな漁港には、どこか懐かしさの漂う、のどかな時間が流れている。
そんな中、散歩中の年配の男性に声をかけられた。軽く挨拶を交わしただけのつもりが、それをきっかけに堰を切ったように昔話がはじまる。県外ナンバーだったこともあったのかもしれない。今は立派な道路が通っているが、かつては目の前の山に狭くて細いトンネルがあり、車が通るたびに歩行者は壁に身を寄せてやり過ごしたという。

話は地元の神社のこと、そしてこの地に息づく信仰の話にも及んだ。
島根半島には「四十二浦」というものがあり、それぞれの浦で海水を汲み一畑薬師に奉納する習わしがあるのだそう。神仏に近い海の力を借りて、願いや祈りを届ける意味があるのだろうか。
ひとしきり話をしたあと、照れくさそうに笑いながらご自身の話をされた。こないだの結婚記念日に奥様が「生まれ変わってもあなたと結婚したい」と仰ったのだとか。思わず微笑んでしまう。あたたかく、やさしく流れる時間。気がつけば立ち話のまま1時間が過ぎていた。別れ際、足元にすり寄ってきたのは、このあたりで暮らす地域猫。人懐こくて、撫でるとゴロゴロ喉を鳴らす。港町に猫、なんとも似つかわしい。

Iターン女子 会員No.129

プリン

鳥取からきました。移住者目線で日々の暮らしを綴っていきます。立派な地元民になるべく発見探検するぞ。