プリンIターン女子 会員No.129

2025.09.30

出雲弁

最初は聞き取れなかったが、毎日少しずつ耳が慣れてきて、
今では意味がわかるようになってきた出雲弁。
あまりにも濃いとそのあとに続く言葉が続かず、笑ってうなずくしかなかった頃が懐かしい。

「えもっちぇのにょうばんこが、えなげな格好しちょったわ」
「えまんごーのわけしは、えろんげなまいがおらいけんねぇ」

——分家の娘さんが、変わった格好してたのよ。
今どきの若い子は、いろんなタイプの子がいるよね。

出雲弁、東北地方のズーズー弁に似ていて、慣れてくると妙に心地いい。
銀行の順番がくるまでの待ち時間、おばあちゃんたちのオシャレトークにほっこりした。

出雲に暮らし始めて、気がつけばもうすぐ2年になる。

新しい土地に馴染むには、少し時間がかかる。
けれど「好きな店」がひとつあるだけで、日々の暮らしはぐっと豊かになる。そんなお気に入りのひとつが「神門(ごうど)」という蕎麦屋。

最初に訪れたのは、まだ移住なんて考えてもいなかった頃。
蕎麦通の友人に誘われ、軽い気持ちでついて行ったのがきっかけだった。彼は“ソバリエ”という蕎麦のソムリエ資格を持つほどの人物で、蕎麦に対する情熱がすごい。そんな彼が、「ここは絶対に行ってほしい」と言うのだから間違いない。

店はテーブル席に座敷、カウンターもあり、誰と来ても、あるいは一人でも、居心地よく過ごせそうな雰囲気。勧められるままに注文したのは「鴨汁そば」。冷たいざる蕎麦を、熱々の鴨出汁につけていただくスタイル。つゆには、厚みのある鴨肉と白ネギがごろっと入っていて、ひと口すすると、その旨みがじんわり広がる。鴨のコクと香ばしさ、そして蕎麦の繊細なのど越し。箸を持つ手が止まらなくなるほどの美味しさだ。

それからというもの、何度もこの店を訪れている。
通い続けるうちに、また別の魅力にも気づいた。たとえば、「天鴨汁そば」という贅沢なメニュー。鴨汁そばに、天ぷらの盛り合わせが加わった一品だ。海老はぷりぷり、舞茸はサクサク。抹茶塩につけていただく。どれも鴨出汁との相性が絶妙で、頬がゆるむ。食べ終えたあと、「ああ、また来よう」と毎回思うほどだ。

平日限定の「出汁巻き卵」も忘れてはいけない。
ふわふわの卵をかじると、中からじゅわっと出汁があふれ出す。口いっぱいに広がるやさしい味は、なんとも言えない幸福感をくれる。これ目当てに、平日に時間を作って訪れるのである。

「住む場所に、好きな店がある」ということは、想像以上に心強い。この蕎麦屋もまた、出雲での暮らしを支えてくれる、大切な存在のひとつになっている。


出雲そば処 神門

〒693-0057 出雲市常松町378
営業時間:11ː30-14ː30 / 17:00-19:30
定  休  日:月曜日

2025.09.08

天体ショー

本日未明、3年ぶりの皆既月食だった。
山陰地方はあいにくの雨予報で、観測は難しいと言われていたが、万が一にかけて目覚ましをセットして眠りについた。

日付が変わった午前1:30。
友人からの「部分食が始まったよ」というLINEで目が覚める。彼はカメラマンで、兵庫から月食の様子を中継してくれていた。あわててベランダへ出ると、雷があちらこちらでピカピカ光る空に、わずかに上が欠け始めた月がはっきり見える。湿気を含んだ空気がむわっとまとわりつく。

完全に地球の影に入る皆既月食は、1時間後の午前2:30。
雲はどんどん増えていき、ひんやりとした風が吹き始める。雷の音が近くなってきて、黒い雲が月を隠す時間もさらに長くなってきた。

皆既月食時の赤銅色やターコイズフリンジとよばれる青いラインがあきらめきれず、天気図を見ながら山の方へ車を走らせる。分厚い雲が流れていく合間、まるで奇跡のように赤銅色に染まった月が姿を見せてくれた。ほんの数分間の出来事だった。

やがて空は完全に雲に覆われ、雷、豪雨と風が吹き荒れた。後半の月食は見ることができなかったけれど、この出雲の空の下で皆既月食を体験できたことがうれしかった。

月が隠れることで、ふだんは見えない星が浮かび上がるのも月食のふしぎな魅力。こういう自然の現象を、ベランダからでも、少し車を走らせた先でも見られるのが出雲の暮らしの豊かさだと思う。空が広く、自然が近い。そんな日常の一コマが、ふと特別な時間に変わる。それが、出雲で暮らすことの醍醐味かもしれない。

Iターン女子 会員No.129

プリン

鳥取からきました。移住者目線で日々の暮らしを綴っていきます。立派な地元民になるべく発見探検するぞ。