出雲に暮らし始めて、気がつけばもうすぐ2年になる。
新しい土地に馴染むには、少し時間がかかる。
けれど「好きな店」がひとつあるだけで、日々の暮らしはぐっと豊かになる。そんなお気に入りのひとつが「神門(ごうど)」という蕎麦屋。
最初に訪れたのは、まだ移住なんて考えてもいなかった頃。
蕎麦通の友人に誘われ、軽い気持ちでついて行ったのがきっかけだった。彼は“ソバリエ”という蕎麦のソムリエ資格を持つほどの人物で、蕎麦に対する情熱がすごい。そんな彼が、「ここは絶対に行ってほしい」と言うのだから間違いない。
店はテーブル席に座敷、カウンターもあり、誰と来ても、あるいは一人でも、居心地よく過ごせそうな雰囲気。勧められるままに注文したのは「鴨汁そば」。冷たいざる蕎麦を、熱々の鴨出汁につけていただくスタイル。つゆには、厚みのある鴨肉と白ネギがごろっと入っていて、ひと口すすると、その旨みがじんわり広がる。鴨のコクと香ばしさ、そして蕎麦の繊細なのど越し。箸を持つ手が止まらなくなるほどの美味しさだ。
それからというもの、何度もこの店を訪れている。
通い続けるうちに、また別の魅力にも気づいた。たとえば、「天鴨汁そば」という贅沢なメニュー。鴨汁そばに、天ぷらの盛り合わせが加わった一品だ。海老はぷりぷり、舞茸はサクサク。抹茶塩につけていただく。どれも鴨出汁との相性が絶妙で、頬がゆるむ。食べ終えたあと、「ああ、また来よう」と毎回思うほどだ。
平日限定の「出汁巻き卵」も忘れてはいけない。
ふわふわの卵をかじると、中からじゅわっと出汁があふれ出す。口いっぱいに広がるやさしい味は、なんとも言えない幸福感をくれる。これ目当てに、平日に時間を作って訪れるのである。
「住む場所に、好きな店がある」ということは、想像以上に心強い。この蕎麦屋もまた、出雲での暮らしを支えてくれる、大切な存在のひとつになっている。
出雲そば処 神門
〒693-0057 出雲市常松町378
営業時間:11ː30-14ː30 / 17:00-19:30
定 休 日:月曜日