プリンIターン女子 会員No.129

2025.10.31

神さまの甘味

出雲の山あいにある「もんぜん」。
一畑薬師へと続く参道沿い、右手にお店の姿が見えてくる。

ここに来た目的は、蕎麦といいたいところだが、今回は「ぜんざい」。
温かく、小豆の香りがふわりと広がり、心までほっとする。
やさしい甘さが口の中に広がる瞬間、思わず顔がにやけてしまう。

ところで、「ぜんざい」という言葉の由来をご存知だろうか。
かつて出雲では、「神在(じんざい)」の季節、神さまたちが集う際に温かい小豆を煮て供え、人々もそれをいただいたという。
この“じんざい”がやがて“ぜんざい”となり、全国に広まったのだとか。
つまり、ぜんざいは神さまたちの甘味、とも言えるのだ。

そして、奥さまがおすすめしてくれたそばガレットも絶品。
実は裏メニューのような存在らしい。
焼き立ての生地から立ち上る香ばしさ、ひと口ごとに素材の個性がくっきりと感じられ、それが見事に調和している。
思わず「こんな組み合わせが?」と驚くトッピングではあるが、それはぜひ実際に味わってのお楽しみ。
フランス料理の形式ながら、味の根底には確かに出雲の土地の風味が息づいている。

看板犬のテツくんもまた、癒しの存在。
窓の外には美しい景色、店内では実家にいるかのようにくつろげ、こってこての雲州平田弁で話す奥さまとの会話も楽しい。
すべてをひっくるめて、ぜひ一度訪れてほしいおすすめのお店だ。


もんぜん

出雲市小境町2117-3

2025.10.20

蕎麦三昧

先日まで真っ白な花を咲かせていた蕎麦畑。
久しぶりに通ったら、花はすっかり姿を消し刈り取られていた。
無性に蕎麦が食べたくなり、蕎麦屋をいくつか巡ってみることに。

最初に足を運んだのは、今市町本町にある「献上そば 羽根屋」。
創業は江戸時代末期。150年という長い年月、変わらずにこの地でそばを打ち続けてきた老舗だ。

「献上そば」という店名は、その名の通り、かつて皇室に献上されたという由緒から。格式高い名前に少し背筋が伸びる。この店のそばは、「挽きぐるみ」と呼ばれる製法で、そばの実の殻まで一緒に挽いてある。そのため、色は少し黒みがかっていて、香りがとにかく豊か。やや細めに手打ちされたそばは、つゆとの絡みも良く、のど越しも軽やかで、ついつい箸が進んでしまう。昼どきには行列ができるほどの人気店なので、時間に余裕をもって訪れるのがおすすめだ。そばがなくなり次第終了という潔さも、老舗らしい。

続いて訪れたのは、出雲大社からほど近い「出雲そば きずき」。
参道「神迎の道」沿いにあり、参拝の後にふらりと立ち寄れるのが魅力だ。
明治〜大正時代に建てられた町家をリノベーションしたという店内は、木の梁や柱がそのまま活かされており、どこか懐かしく、落ち着いた雰囲気。こちらのそばは、粗挽きの石臼挽きそば粉を使用していて、香りが強く、噛むほどにコシと風味を感じる。まさに「食べるそば」といった趣きで、しっかりとした食感を楽しめる。「縁を結ぶ」という意味でも、出雲大社の参拝後にこの店でそばをいただくのは、なんだかご利益がありそうだ。

最後に紹介したいのは、少し趣向の異なる一軒。
「風月庵」は、塩冶町の住宅街にひっそりと佇むお店だ。
観光客よりも地元の常連が多く、「教えたいけど教えたくない」そんな声が聞こえてきそうな名店。

ここでは、手打ちそばはもちろんだが、実はラーメンやカツ丼も大人気。特に「ラーメンとそばのセット」を注文する人が多く、昼時にはほぼ満席になるほど。使われるそば粉は地元産を中心に、季節や湿度によって配合を微妙に変えているというから、職人のこだわりが光る。とろりとしたそば湯は、そのまま飲んでも美味しい“飲むスープ”。つゆに加えれば、あご出汁のような深い旨味が広がり、食後の楽しみとしても格別だ。

出雲の秋は、目で見ても、舌で味わっても、心に残る季節だ。

2025.10.03

清廉の花園

出雲の名物といえば、やっぱり出雲そば。
移住前から出雲はよく訪れていたし、暮らしはじめて2年になろうとしているが、一度も蕎麦の畑を見かけることがなかった。

季節はめぐり、白い花が咲いているはずなのに、
いったいどこにあるのだろうと、不思議に思いながら日々を過ごしていた。

そんな中、思いがけず偶然にもその蕎麦畑に出会うことができた。
いつもと変わらぬ通勤路のはずが、朝、家を少し早く出たおかげで、普段は通らない遠回りの別ルートを選ぶことになった。その道の途中、田んぼに囲まれた細いあぜ道で、白く輝くそばの花を見つけたのだ。

朝露をまとった稲穂が風に揺れて、黄金色にキラキラ光っている。
その畔には、燃えるような赤い彼岸花がぽつぽつと咲き、そして緑の茎の間にそばの真っ白な花が広がっている。それぞれが鮮やかな色をしているのに、不思議なことにお互いを引き立て合い、見事な調和を作り出していた。目の前に広がる光景は、まるで絵画のように美しかった。

朝晩はすっかり涼しくなり、秋の気配が強まっている。風が心地よく、空気が澄んでいる。そんな季節の流れを感じながら、今年も自然はちゃんと巡り、花は咲くべきときに咲いているのだと改めて思った。

そして、少しだけ早く家を出て、普段とは違う遠回りの道を通ったことで、この素晴らしい景色に出会えたことをありがたく思う。早起きは三文の得とはよく言ったものだ。ちょっとした偶然が、こんな素敵な瞬間をもたらしてくれる。

2025.09.30

出雲弁

最初は聞き取れなかったが、毎日少しずつ耳が慣れてきて、
今では意味がわかるようになってきた出雲弁。
あまりにも濃いとそのあとに続く言葉が続かず、笑ってうなずくしかなかった頃が懐かしい。

「えもっちぇのにょうばんこが、えなげな格好しちょったわ」
「えまんごーのわけしは、えろんげなまいがおらいけんねぇ」

——分家の娘さんが、変わった格好してたのよ。
今どきの若い子は、いろんなタイプの子がいるよね。

出雲弁、東北地方のズーズー弁に似ていて、慣れてくると妙に心地いい。
銀行の順番がくるまでの待ち時間、おばあちゃんたちのオシャレトークにほっこりした。

出雲に暮らし始めて、気がつけばもうすぐ2年になる。

新しい土地に馴染むには、少し時間がかかる。
けれど「好きな店」がひとつあるだけで、日々の暮らしはぐっと豊かになる。そんなお気に入りのひとつが「神門(ごうど)」という蕎麦屋。

最初に訪れたのは、まだ移住なんて考えてもいなかった頃。
蕎麦通の友人に誘われ、軽い気持ちでついて行ったのがきっかけだった。彼は“ソバリエ”という蕎麦のソムリエ資格を持つほどの人物で、蕎麦に対する情熱がすごい。そんな彼が、「ここは絶対に行ってほしい」と言うのだから間違いない。

店はテーブル席に座敷、カウンターもあり、誰と来ても、あるいは一人でも、居心地よく過ごせそうな雰囲気。勧められるままに注文したのは「鴨汁そば」。冷たいざる蕎麦を、熱々の鴨出汁につけていただくスタイル。つゆには、厚みのある鴨肉と白ネギがごろっと入っていて、ひと口すすると、その旨みがじんわり広がる。鴨のコクと香ばしさ、そして蕎麦の繊細なのど越し。箸を持つ手が止まらなくなるほどの美味しさだ。

それからというもの、何度もこの店を訪れている。
通い続けるうちに、また別の魅力にも気づいた。たとえば、「天鴨汁そば」という贅沢なメニュー。鴨汁そばに、天ぷらの盛り合わせが加わった一品だ。海老はぷりぷり、舞茸はサクサク。抹茶塩につけていただく。どれも鴨出汁との相性が絶妙で、頬がゆるむ。食べ終えたあと、「ああ、また来よう」と毎回思うほどだ。

平日限定の「出汁巻き卵」も忘れてはいけない。
ふわふわの卵をかじると、中からじゅわっと出汁があふれ出す。口いっぱいに広がるやさしい味は、なんとも言えない幸福感をくれる。これ目当てに、平日に時間を作って訪れるのである。

「住む場所に、好きな店がある」ということは、想像以上に心強い。この蕎麦屋もまた、出雲での暮らしを支えてくれる、大切な存在のひとつになっている。


出雲そば処 神門

〒693-0057 出雲市常松町378
営業時間:11ː30-14ː30 / 17:00-19:30
定  休  日:月曜日

2025.09.08

天体ショー

本日未明、3年ぶりの皆既月食だった。
山陰地方はあいにくの雨予報で、観測は難しいと言われていたが、万が一にかけて目覚ましをセットして眠りについた。

日付が変わった午前1:30。
友人からの「部分食が始まったよ」というLINEで目が覚める。彼はカメラマンで、兵庫から月食の様子を中継してくれていた。あわててベランダへ出ると、雷があちらこちらでピカピカ光る空に、わずかに上が欠け始めた月がはっきり見える。湿気を含んだ空気がむわっとまとわりつく。

完全に地球の影に入る皆既月食は、1時間後の午前2:30。
雲はどんどん増えていき、ひんやりとした風が吹き始める。雷の音が近くなってきて、黒い雲が月を隠す時間もさらに長くなってきた。

皆既月食時の赤銅色やターコイズフリンジとよばれる青いラインがあきらめきれず、天気図を見ながら山の方へ車を走らせる。分厚い雲が流れていく合間、まるで奇跡のように赤銅色に染まった月が姿を見せてくれた。ほんの数分間の出来事だった。

やがて空は完全に雲に覆われ、雷、豪雨と風が吹き荒れた。後半の月食は見ることができなかったけれど、この出雲の空の下で皆既月食を体験できたことがうれしかった。

月が隠れることで、ふだんは見えない星が浮かび上がるのも月食のふしぎな魅力。こういう自然の現象を、ベランダからでも、少し車を走らせた先でも見られるのが出雲の暮らしの豊かさだと思う。空が広く、自然が近い。そんな日常の一コマが、ふと特別な時間に変わる。それが、出雲で暮らすことの醍醐味かもしれない。

2025.08.30

出雲弁⑳

先日、ご近所さんから料理のお裾分けをいただいた。
「これ、まいずね~。だまされたと思って、たべてまっしゃい!」

思わず、え?っとなった。
まずいものを作ったけど食べてみろと?

これが出雲弁の面白いところで、標準語にすると
「これ、美味しいんだよ~。だまされたと思って食べてみて!」

「まいずね~」は一見「まずいね~」みたいに聞こえるけど、美味しいよ~という意味。
ちなみに「まずい(不味い)」は出雲弁で「まんない」。これはこれで難しい 笑

そして、「たべてまっしゃい!」の「まっしゃい」は、「~してみなさい」という意味。
「遠慮せんでいいよ」「安心してやってみてね」というような優しさがギュッと詰まった表現と言っても過言ではないと思う。言葉の響きがとても可愛らしい。

出雲弁には出雲の人の温かい人柄がそのまま表れている。
だから、「食べてまっしゃい!」とすすめられたら、
ただの「食べてみなさい」ではなくて、出雲の愛の言葉として受け取ってほしい。

自炊ではなく、たまには外で誰かが作った美味しいごはんを食べたくなる。
さてどこに行こうかと悩んだとき、近所の換気扇から甘辛い醤油の香りが漂ってきた。
「ああ、今日はアレ食べよう」心が決まり斐川町の「創作ダイニングkohaku」へ車を走らせる。

落ち着いた雰囲気の中にほんのり洋風のエッセンスがあって、居心地がいいお店。
メニューを見ると、やっぱり気になるのは名物の「豚巻大根ステーキ」。
厚めに切った大根を、ふろふき大根のようにやわらかくなるまでじっくり炊き上げ、甘辛い醤油だれに漬けた豚肉で包み、鉄板で香ばしく焼いている一品だ。箸を入れると、じゅわっと大根のやさしい旨みが広がり、豚肉のジューシーさと甘辛いたれが絶妙に絡み合う。まさにごはんがすすむ味で、初めて食べたときからすっかり虜になってしまった。

この店のすごいところは、料理を出して終わりじゃないこと。
食べ終わったお皿を厨房に戻すとき、必ず残り具合をチェックして、もし食べ残しがあればその原因を探り、もっとおいしくなるように工夫を重ねているという。お客さんの反応を真剣に受け止めているからこそ、ここまで愛される料理が生まれるのだろう。

ちなみに、8月25日は浴衣で来店すると10%割引になる限定サービスがあるらしい。
夏の終わりに、浴衣でおいしい料理を味わうのもいい思い出になりそうだ。こんなふうに、たまには外で誰かが丁寧に作った料理に身をゆだねる時間も大切だなと思う。


創作ダイニングkohaku

出雲市斐川町直江4521-2
0853-72-2005

「キララビーチで花火が上がるらしい」そんな噂を聞いて、夏の夕方、多伎町へ向かった。

この日は「多伎キララまつり」。道の駅横の広場は、太鼓やバンド演奏、じゃんけん大会、抽選会と盛りだくさん。屋台の香ばしい匂いと人々の笑い声に包まれて、夏祭りらしい熱気が広がっていた。

けれど、駐車場はどこも満車。しばらく周辺をさまよい、ようやく少し離れた海沿いの駐車場に車を停めた。会場のにぎわいから離れ、浜辺で花火を待つことに。その時間が、思いがけず特別だった。夕暮れの浜辺は、ほとんど人影もなく静か。波の音だけが響く中、小さなカニが砂浜をすばやく横切っていく。

空は赤と青が混じる美しいグラデーションに染まり、ぽつんと浮かぶ三日月が、海の上に“月の道”を描いていた。波が揺れるたびに光がきらめき、まるで海が宝石のように輝いていた。

やがて空に「ドン」と響く音。夜空に花火が咲き、その光が海にも映る。波打ち際に広がる光と色。ここは、静かな穴場だった。にぎやかな祭りと、ほとんどヒトがいない浜辺。その両方を楽しめた、贅沢な夏の夜。

キララビーチは、“キラキラビーチ”だった。

 


キララビーチ

出雲市多伎町田岐

2025.07.28

出雲弁⑲

出雲弁クイズ

出雲弁には、思わず聞き返したくなるような、ユニークな言葉がたくさん。
さて、今回はクイズです!

■問題
【くよし】とは何のことでしょう?

■ヒント①
田舎ではよくみかける光景。

■ヒント②
関係のない人にとっては、ちょっと迷惑に感じることも…。

■ヒント③(使い方例)
「ま、ほんに、くよし しとらいて洗濯もんが臭んなっていけんがね。布団も干せれんけん、かなわんわ~」

 


■さて、わかりましたか?
正解は………

田んぼの畔で枯れ草を燃やし、その煙がもくもく立ち上っている光景のこと。
語源は、古語の「くゆる」(=煙が立ち上る、くすぶる)に由来していると考えられていて、それが方言の中で「くゆし」「くよし」と音変化して残っている。実際、「くゆる」は万葉集にも登場する古い言葉で、こうした古語の名残が方言として今も生きているのは面白い。

なお、「くよし」は出雲地方だけでなく、島根の広い範囲で通じる言葉なのだそう。洗濯物が煙くさくなったり、目がしょぼしょぼしたりと、副作用(?)もあるため、最近は「やめてほしいわ〜」という声もちらほら。個人的には季節を感じる好きな香りだったりする。どこか懐かしくて、あたたかい地域の風景のひとつには違いない。

Iターン女子 会員No.129

プリン

鳥取からきました。移住者目線で日々の暮らしを綴っていきます。立派な地元民になるべく発見探検するぞ。